2024年6月26日(水)更新
ドジャースの山本由伸投手が、6月15日(現地時間)、本拠地でのロイヤルズ戦に先発し、2回28球を投げ終えた時点で、右上腕三頭筋の張りを訴えて緊急降板しました。ブルペンでの投球から肩に違和感を感じていたという山本投手。精密検査の結果、右肩腱板損傷が判明し、15日間の故障者リスト(IL)に入りました。
山本投手にとっては7日、敵地でのヤンキース戦以来の登板でした。この時は、勝ち負けはつかなかったものの、7回無失点の好投を演じました。奪三振7、被安打2。デーブ・ロバーツ監督も「ドジャースで最高の登板だった」と頬を緩めていました。次はその6日後のレンジャース戦に登板する予定でしたが、肩の張りが出たため中7日で今回の登板となったわけです。
チームとしては万全を期したつもりなのでしょうが、単なる肩の張りでなかったことは精密検査によって明らかになります。
では、この右肩腱板損傷、ピッチャーにとっては、どのくらい厄介なものなのでしょうか。国内で数多くのスポーツ選手を診察し、治療にあたっている整形外科医の坂山憲史医師(南松山病院副院長)に解説してもらいました。
「腱板のことをローテーターカフと言います。肩甲骨の前面から上腕骨の前面に付着する肩甲下筋(けんこうかきん)棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)、小円筋(しょうえんきん)の総称です。
報道を見る限り、棘上筋か棘下筋を痛めた可能性が高いように思われます。ここを痛めると肩が上がらくなり、投げるのが困難になる。ただし筋肉が断裂していないのであれば、今のところ手術は不要です。まずは安静に努めること。治療としては超音波や衝撃波などが考えられます」
メジャーリーグ1年目での故障といえば14年の田中将大投手(ヤンキース)や18年の大谷翔平選手(エンゼルス)の例が思い出されます。
その原因として、日本のボールに比べるとやや粗雑な米国製のボール、硬いマウンドで踏ん張ることによる肩への負担などがあげられます。
日米のボールの違いについては、現在、ツインズでプレーするジョー・ライアン投手が、2021年7月、東京五輪に米国代表として出場した際、こんな感想を口にしていました。
「すごい!このボールはパーフェクト。これを作ったSSKの人はとても良い仕事をしたと思います。手にしっかりと馴染む感触で、大きさも均一です。米国で投げている球は(ビリヤードの)キューボールのように滑りやすく、しかも大きさが微妙に違っている。SSKのボールはそんなことはなく均一で、手にも馴染む。マウンドでは滑り止めのためロジンバッグを使っていますが、今回はそれにあまり触る必要がないくらいでした」
そして、こう続けました。
「打者に聞いても、飛距離の面で問題はないとのことです。アメリカでもこんなボールを使うべきだと思います。それが投手のためにも、打者のためにもなるでしょう。現在、問題になっている(投手が使う違法な)粘着性物質についても、このようなボールを使うことで多くのことが解決すると思います」
話を山本投手に戻しましょう。坂山医師は「日本人ピッチャーが米国でヒジや肩を痛める原因としてボールの質やマウンド、登板間隔の他に、投げ方もあるかもしれない」と前置きして、次のような見方を披露しました。
「肩峰の下には腱板を保護する肩峰下滑液胞という滑液の入った袋があります。三肩筋と腱板がこすれると、ここに負担がかかり炎症を引き起こします。これを避けるためには三肩筋や腱板を痛めない投げ方が求められます。
たとえば今メジャーリーグで流行しているショートアーム。テイクバックの際、あまり腕を伸ばさず、ヒジを上げたままの状態から素早くトップの位置をつくるコンパクトな投法です。ヒジを手術してからダルビッシュ有投手(パドレス)も、この投げ方に変えました。
ピッチャーよりも、もっとコンパクトな投げ方をしているのがキャッチャー。その日登板したピッチャーの球数だけ返球し、盗塁阻止の送球もしているのに、肩やヒジを故障する者が少ない。故障防止のヒントが隠されているような気がします」
故障に強い投球フォームの探究が続きます。
二宮清純
1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。