2024年4月24日(水)更新
ア・リーグに続き、2022年にナ・リーグもDH制を導入したことにより、二刀流の大谷翔平選手をのぞき、基本的にピッチャーが打席に立つ機会はなくなりました。ドジャースにおいては、過去3人の日本人ピッチャーがホームランを記録しています。
日本人選手で、メジャーリーグ初ホームランを記録したのはドジャース時代の野茂英雄さんです。1998年4月28日、ドジャースタジアムでのブルワーズ戦。右腕のホセ・メルセデス投手からレフト側のブルペンに叩き込みました。
打ったボールは初球、インサイドのストレート。野茂さんが最も得意とするコースです。NPB、メジャーリーグを通じて自身初のホームランに気を良くした野茂さん、このシーズン最初の完投勝ちを収めました。
これは野手も含めて日本人戦手が初めてメジャーリーグで記録したホームランでした。メジャーリーグ初ヒットは、日本人初のメジャーリーガー村上雅則さん(ジャイアンツ)が記録していますが、二塁打、三塁打、打点、得点などの打撃記録は、全て野茂さんが第1号です。もしかすると盗塁も、と思って調べたのですが、さすがに盗塁は成功も失敗もゼロでした。
野茂さんはメジャーリーグで通算4本のホームランを放っていますが、いずれもドジャース時代のものです。DH制を敷くア・リーグの球団(タイガース、レッドソックス、デビルレイズ、ロイヤルズ)への移籍がなかったら、ホームラン数はもっと増えていたかもしれません。
蛇足ですが、試合前、野茂さんがバッティング練習しているのを何度か見たことがあります。これが実に楽しそうにやっているのです。近鉄時代はDH制だったため、打撃練習は、ほとんどしたことがありません。それもあってか、「いや気分転換にもなって楽しいですよ」と語っていました。
また打球もよく飛んでいました。レフトスタンドではねる打球を見て、野手が驚いたような表情を浮かべていたことを、つい昨日のことのように思い出します。
ドジャースで野茂さんに続いてホームランを放ったのは、これまたピッチャーの石井一久さんです。1年目の2004年7月31日、ペトコパークでのパドレス戦で、07年にはサイ・ヤング賞に輝く右腕のジェイク・ピービー投手からライトスタンドにアーチを架けました。
ちなみにセ・リーグ出身の石井さんは、ヤクルト時代に3本のホームランを記録しています。
ピッチャーといえども、メジャーリーグにやってくるような選手は皆、高校時代は強打者として鳴らしていました。その片鱗が窺えるような一発でした。
ドジャース所属の日本人ピッチャー3人目のホームラン記録者は、マエケンこと前田健太投手(現タイガース)です。
2016年4月6日、パドレスの本拠地ペトコパーク。メジャーリーグ初登板の前田投手は4回、アンドリュー・キャッシュナー投手の変化球を振り抜き、打球をレフトスタンドに運びました。名刺代わりの一発でした。
投げても6回無失点の好投で初勝利。投打の二刀流でヒーローになった前田投手は「PL学園の4番なんで」と満面の笑みで語りました。
周知のように前田投手はPL学園時代、「エースで4番」で名を売りました。ドラフトで1位に指名した広島のスカウトは「もちろんピッチャーでいくが、バッティングも捨てがたい」と語っていたほどです。
メジャーリーグのデビュー戦で、いきなりホームランを放った日本人投手は、後にも先にも前田投手だけです。
二宮清純
1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。