千葉県柏市を代表するスポーツと言えば、サッカーJ1の柏レイソルだけではありません。元関脇・麒麟児の出身地ということもあり、市は「相撲の街」を標榜しています。柏市中央体育館の敷地内には「柏相撲少年団」が活動する相撲場が設けられています。
相撲場でおよそ40人の少年・少女たちを指導するのは、柏市相撲連盟理事長の永井明慶さんです。地元出身の永井さんは日大卒業後、静岡県の焼津市役所に勤めながら、実業団選手として団体・全日本選手権で活躍しました。
その後、地元に戻って日本体育大柏高の教員となり、相撲部を全国有数の強豪に育て上げました。
代表的な教え子に大関・豊昇龍(本名スガラグチャー・ビャンバスレン)がいます。
永井さんから話を聞きました。
「元横綱・朝青龍のおいにあたる豊昇龍はモンゴルからの留学生として、最初はレスリング部に入部しました。彼が入学したばかりの5月、大相撲を観戦するため国技館に連れていったんです。その日は、横綱・日馬富士が負けてざぶとんが舞った。その雰囲気に感動したようで、“先生、僕に相撲をやらせてください”と言ってきましたよ。おじさん(朝青龍)は、すごい舞台で相撲を取っていたんだ。そして勝ち続けてきたんだ、という思いが頭を巡ったんでしょうね。
しかし、当時の豊昇龍は体重がまだ63キロしかありませんでした。運動能力は高くても体が軽く、簡単に投げ飛ばすことができた。それが悔しかったのか、“もう一丁、もう一丁”と言って向かってくるんです。その向上心と闘争心はおじさんゆずりのところがありましたね」
2024年九州場所千秋楽。大関・琴櫻は豊昇龍をはたき込みで破り、14勝1敗で初優勝を果たしました。実は琴櫻も、永井さんの教え子のひとりです。
「彼がウチの道場にやってきたのは、まだ幼稚園の頃です。体は大きかったのですが、とにかく性格がやさしい。たとえば自分より小さな子と稽古すると、土俵際に寄っていっても、そのまま寄り倒すことができないんです。そっと相手を土俵の外に出そうとして、逆に自分が“勇み足”になるようなことがありました。“気はやさしくて力持ち”という言葉が、ぴったり当てはまるような子でした」
現在、道場には3歳から15歳までの子どもが通っています。月謝は一家族2000円。ひとりっ子でも3人兄弟でも月謝は一緒です。
親元を離れて柏にまでやってきた中学生は、永井さんの自宅で“寮生活”を送っています。
さて永井さんが子どもたちに教えるのは相撲だけではありません。「人間としての成長」を促すため、地域貢献活動、奉仕活動にも積極的に取り組んでいます。
そのひとつが高齢者施設への慰問です。
「施設に入っている高齢者の楽しみといったら、年6場所の大相撲のテレビ観戦。高齢者の方は本当に相撲が好きです。
私たちは高齢者施設にマットの土俵を持ち込み、ここで子どもたちの取り組みを見せます。これは喜ばれますね。また元気のいい高齢者の中には、“自分も相撲を取りたい”という人もいる。もちろんケガしないように最大限の配慮はしますが、地域の子どもたちと触れ合うことで、皆さん笑顔になります。見ている私たちも、うれしくなりますよ」
永井さんは、毎年12月、柏市内で全国の中学生を対象にした「柏力杯」なる少年少女相撲大会を開催しています。
2024年は約300人の“豆力士”が全国から集まりました。
「相撲はルールが簡単で短時間で勝負がつく。しかも、おカネもあまりかからない。今後、相撲の魅力が再認識されることを願っています」
永井さんは、そう話していました。
1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。
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