柔道において、選手が相手に礼をするのは当たり前ですが、親と指導者も相手方の親や指導者に礼をしてから試合がスタートするというユニークな取り組みを行っているのが、今回紹介する「スポーツひのまるキッズ小学生柔道大会」です。どんな狙いがあるのでしょう。
ひのまるキッズには以下、6つの基本理念があります。
・「はい」という素直な心
・「ありがとう」という感謝の心
・「私がします」という奉仕の心
・「すみません」という反省の心
・「おかげさま」という謙虚の心
・「いまから」「ここから」という不屈の心
「スポーツひのまるキッズ小学生柔道大会」は、株式会社ジャパンスポーツコミッションが企画し、2009年にスタートしました。現在は一般社団法人スポーツひのまるキッズ協会が運営を担っています
冒頭で紹介したように、通常の大会では、畳の上で礼をかわすのは選手だけです。ところがこの大会では、指導者や最前列に陣取る親も、相手方に礼をするのです。
この取り組みの狙いについて、永瀬義規代表理事は、HPでこう述べています。
<選手(子供)は誰よりも自分の親に試合を見てもらいたいと思っているでしょうし、親も自分の子供の試合を誰よりも近くで応援したい、一緒に闘いたいと望んでいると思います。
そんな環境で、試合という極限状態のありのままの姿を見てもらうことで、子供たちは成長し、親もまた成長した子供をみて、様々なことを感じるとともに、相手方の親や指導者の立ち居振る舞いなどを見ながら勉強していただいているようです>
柔道は「礼に始まり、礼に終わる」と言われています。例だけで、頭を約30度下げる「敬礼」、約45度下げる「拝礼」、直立の姿勢のままで行う「立礼」、直座の状態で行う「座礼」など細かく分かれています。柔道では、これらを「礼法」と呼び、試合の勝ち負けよりも重要視しています。
礼法の原点は、相手への敬意にあります。柔道は対戦相手抜きには成り立ちません。それは社会生活も同じです。相手の人格を尊重し、協調し、協力する。こうして日々の生活は円滑に営まれていくのです。
ところが近年、社会においては「自分さえよければ」という風潮が顕著になり、ややもすると独善的な主張が幅をきかせるようになってきました。
柔道の創始者である嘉納治五郎は「精力善用」「自他共栄」という2つのモットーを提唱しました。
前者は、私なりの解釈では「闘争心の平和利用」です。そして、後者は自分も栄えれば相手も栄える、相手が栄えれば自分も栄える。今風に言えば「Win-Win」の精神でいこうじゃないか、ということでしょう。
世界が不安定化し、「自分ファースト」「自国ファースト」が声高に叫ばれる昨今、治五郎の「精力善用」「自他共栄」の精神は、古びるどころか、ますます必要とされているように思われます。
話を「スポーツひのまるキッズ小学生柔道大会」に戻しましょう。大会では永瀬代表理事の「全員にスポットライトを当てよう」との考えの下、出場選手全員に表彰の機会が設けられている他、親が表彰台に上ることもあります。優勝者や上位入賞者だけにメダルやトロフィーが贈られる従来の表彰式とは全く違った風景が、そこには広がっています。
今年7月、神奈川県横須賀市で開催された「第16回スポーツひのまるキッズ関東小学生柔道大会」には24都道府県から720人の選手が集まりました。
大会における最高の栄誉は「マナー賞」です。これは審判員の投票で選出されます。多くの保護者が「一番いただきたい賞です」と語っていたのが印象的でした。
1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。
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