写真:二宮清純

スポーツ×教育コラム by 二宮清純

2024.09.26

ラグビーの原点伝える林敏之。
ヒーローズカップの設立趣旨

写真:林敏之
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ラグビーのヒーローズカップは、NPO法人ヒーローズが主催する小学5、6年生によるミニラグビー(9人制)大会です。2009年にスタートし、第17回大会決勝は2025年1月25、26日の両日、横浜市の日産スタジアムで開催されます。

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「憧れのヒーロー」

ヒーローズカップに参加するためには選手、保護者が参加承諾書に署名、捺印しなければなりません。
参加承諾書の前文には、こうあります。

<ヒーローズカップは行き過ぎた勝利至上主義には明確に反対しています。
今後長く続くラグビー人生において、ヒーローズカップは最終目標ではなく、無理をして、無理をさせて大会に参加させる行為には、断固として反対をします>

主催者側の開催哲学を知るには十分な内容ですが、さらに後段には、こう記されています。

<ヒーローズカップは、優勝を目標とするが目的ではありません。
小学生が勝ったり負けたりする体験を通して、悔しさやうれしさを感じ、思いやる心が育まれ成長していくことを目的としています>

NPO法人ヒーローズの会長は、元日本代表キャプテンの林敏之さんです。
林さんは設立趣旨で、こう書いています。

<私はラグビーと言うスポーツを通し、汗や涙を流し、さまざまな感動、湧き上がる瞬間を体験しました。飾ることが出来ず作ることも出来ず、とめどなく涙があふれた時、人に見せる私ではなく、私は私であり、真実の瞬間がありました。この湧き上がってくる元が感性であり、喜怒哀楽も涙も、夢や憧れだって、皆感性から沸いてきます>

<私に夢を語り、新たな自分に出逢わせてくれた、憧れのヒーローがいたように、私もひょっとしたら誰かのヒーローになれるかもしれません。いや本当は誰もが自分自身の人生の、そして誰かのヒーローであるのです>

林さんにとっての「憧れのヒーロー」は、テレビドラマ『スクール☆ウォーズ』のモデルとなった元日本代表でラグビー指導者の山口良治さんでした。

オーストラリアでの体験

林さんは17歳で、高校日本代表に選ばれました。オーストラリア遠征で桜のジャージーを身にまとった際、コーチだった山口さんから、こう声をかけられたそうです。

「おい、皆集まれ。手を繋げ……。いいか、みんな待っているぞ! お前らが勝ったっていう知らせを! 日本でなあ、お前たちのお父さんとお母さん。学校の先生も、協会の人もみんな待っているぞ!」

次の瞬間、林さんの目から涙がボロボロとこぼれ落ちました。自らが体験した熱い思いを、子どもたちにも味わってもらいたい。その思いが林さんを突き動かしているのです。

――今は林さんも山口さんのような気持になっているわけですね。

「ヒーローズカップは、勝っても負けても、ものすごく純粋なものを見せてくれるんです。選手だけじゃなくコーチもね。試合後、コーチ同士が涙をためて抱き合ったりしているんです。もう敵も味方も関係ない。お互いラグビー仲間。それを見て僕たちまで感動する。“One for All All for One”という言葉をこれほど実感できる大会はありません」

ラグビーには「One for All All for One」の他にも、「No Side」「Noblesse Oblige」(フランス語)など実社会にも有用な関連用語がたくさんあります。
トライを取ったり、タックルを決めた選手だけがヒーローではありません。試合でうまくいかなかった選手も、全力を尽くしたのであれば、そして相手を敬う気持ちがあれば、立派にヒーローの資格があるのです。

その意味で、ヒーローズカップは、名もなきヒーローたちによって成り立っている大会と言えるかもしれません。

サイン:二宮清純

二宮清純

二宮清純 スポーツジャーナリスト

写真:二宮清純

1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。

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