二宮清純コラム プロ野球ガゼット

2017年12月05日(火)更新

15:00

北海道にファンを定着させた「新庄の遺産」
「補殺にインセンティブ」が個性派のこだわり

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 早くも大物ルーキーが"大仕事"をしました。62億円超! これは北海道日本ハムに入団した清宮幸太郎選手がもたらす経済効果の額です。スポーツニッポン紙をはじめ多くのメディアが報じていました。

清宮の経済効果

 関西大学・宮本勝浩名誉教授は「清宮効果」によって観客動員数が5%増加すると仮定し、こう試算しました。入場料やテレビ放映権料の増収はもちろん、関連グッズの売り上げ、さらにキャンプやオープン戦への集客増も見込んで合計約29億円。ここから一次、二次波及効果を含めると62億6320万円の経済効果があるとしました。この数字は過去の大物ルーキー、阪神・藤浪晋太郎投手(約44億円)、日本ハム・斎藤佑樹投手(約52億円)を大きく上回ります。

 今季、日本ハムは2年連続で年間200万人動員を達成しました。来季は「清宮効果」で札幌移転以来最多となる210万人突破を目指します。

 周知のように日本ハムは2004年、東京から札幌に本拠地を移しました。後楽園と東京ドームを本拠地にしていた時代、年間最多動員数は1988年の245万8500人でした。しかし81年を最後に1度も優勝がなくBクラスが14度とあってはファン離れが進みます。東京で最後のシーズンとなった03年、年間動員数は131万9000人にまで落ち込みました。最盛期から実に110万人以上の減少です。

 このような状況下で進められた本拠地移転ゆえに、球団と親会社は「人気回復」を重視しました。そのために必要とされたのが「目玉となる人気選手」でした。

 当時、統括本部長を務めていた三澤今朝治さんはこう振り返ります。

「札幌移転が決定した後、道民の皆さんに日本ハムの知っている選手を尋ねるアンケートを行ったんです。そうしたら小笠原(道大)、岩本(勉)など数人しか出てこなかった。そもそも選手以前にチームの知名度が低かったんですね」

「誰かいないか!?」と目玉選手を探しているなか、新庄剛志さんが日本に戻ってくるという情報を入手しました。

 新庄さんは01年、阪神からFAで海を渡り、メッツとジャイアンツでプレーしました。阪神で4番を打ったこともある新庄さんは、メジャー3年間で2割4分5厘、ホームラン20本を記録しました。契約金30万ドル(約3300万円・当時)、年俸20万ドル(約2200万円・当時)という額を考えれば上々の成績です。しかも俊足と強肩はメジャーで十分に通用しました。言うまでもなく知名度は抜群です。三澤さんは真っ先に手を上げ、交渉に乗り出しました。

「他の役員からはメジャーでの成績不振もあり、反対の声もあがりました。私も不安はあったんですが"ホームランは二桁、打点は60~70、打率は2割7分から8分はいけます"と言って説得しました。実際、04年の新庄は打率2割9分8厘、24本塁打、79打点。我ながらいい読みだったと思います(笑)」

「これからはパ・リーグ!」

 03年12月、日本球界復帰にあたって札幌ドームで行った新庄さんの会見は今も語り草です。

「これからはメジャーでもないです。セ・リーグでもないです。パ・リーグです! 日本ハムに入ってやりたいことは、札幌ドームを満員にすること。そしてチームを日本一にすることです」

 こう高らかに宣言した新庄さんはプレー以外でも球団に貢献しました。試合前のシートノックにスパイダーマンのかぶり物で現れたり、オールスターではホームスチールを決めてファンを喜ばせたりしました。また札幌ドームのレフトスタンドにはSHINJOシートを設けて野球少年を無料招待するなど、球団イメージの向上に一役買いました。

 ところで三澤さんは契約の際、新庄さんの意外な一面に触れたといいます。

「彼はファンに魅せる野球、楽しませる野球というものを大事にしていました。契約のときも、彼が要求したのは年俸の額ではなかったんです」

 何と新庄さんが要求したのは「補殺に関するインセンティブ(報奨金)」でした。補殺とは打者や走者をアウトにした野手につくもので、外野手ならばバックホームや二塁、三塁への進塁を阻止した場合などに記録されます。外野手にとっては腕の見せ所です。とはいえ、このプレーにインセンティブとは聞いたことがありません。野手のインセンティブといえばヒット1本にいくら、1ホームランにいくら、1盗塁にいくらというのが相場です。長年、選手との交渉にあたってきた査定のスペシャリスト・三澤さんも面食らったといいます。

「交渉を長年にわたり担当していましたが、"補殺にインセンティブをつけろ"なんて言われたことはありません。そんなことを要求するのは新庄が初めてだったからびっくりしましたよ。それだけ彼は自分の肩の強さ、そして守備を見てほしかったんでしょうね」

 超個性派のイメージとは裏腹に新庄さんは、チームメイトにもいい影響を与えました。

「最初はチームから浮いてしまうんじゃないかと心配していましたが、そんなことはなかった。新庄の姿勢は他の選手にもいい影響を与えました。誰もが自分のプレーに対するこだわりを大事にするようになり、そして積極的にファンサービスに取り組むようになった。新庄が日本ハムのイメージを変えてくれたんだと思っています」

 新庄さんの入団から3シーズン目の06年、日本ハムは札幌移転後、初のリーグ優勝と日本一を果たしました。同年、新庄さんが引退した後も観客動員数はほぼ右肩上がりで、今では北海道の地にしっかりと根を下ろしています。"新庄効果"の遺産といっていいでしょう。

K.Ninomiya二宮清純

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二宮清純

国内外で幅広い取材活動を展開し、独自の視点からスポーツジャーナリストとして切れ味のよいコメントを繰り出す。毎週火・金更新。

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