2023年11月13日(月)更新
ジャイアント馬場“ヤシの実割り”が
増幅させた“東洋の巨人”のスケール感。
元「週刊ゴング」編集長で、現在はフリーのプロレスライターとして活躍している小佐野景浩さんとの共著「馬場・猪木をもっと語ろう!」(廣済堂新書)を、先頃、上梓しました。
ハワイ習得説はウソ?
読んで字のごとく、昭和プロレスの両巨頭であるジャイアント馬場とアントニオ猪木を論じた本ですが、馬場の必殺技であるココナッツ・クラッシュ(ヤシの実割り)について、小佐野さんから衝撃的な話を聞きました。
同書から、その部分を引用します。
<小佐野 よくココナッツ・クラッシュはハワイで習得してきたと言われますが、それは全く嘘っぱちのエピソードです。アメリカ遠征から凱旋帰国してきた63年3月24日、蔵前国技館大会のメインでキラー・コワルスキーと45分のフルタイムドローの試合をやっているんですが、その頃、馬場が使えた技がチョップとココナッツ・クラッシュでした。だから、その頃から使っていたんです。
二宮 でもココナッツ・クラッシュという名前は、ハワイ好きの馬場のイメージにぴったり合いますよね。
小佐野 だから、馬場がハワイに行った時、現地の人がココナッツの実をナタで割って、中のジュースを飲むのを見て思いついた技だという後付けのエピソードができたんです。>
どうも、そういうことのようです。
ココナッツ・クラッシュの掛け方は、そう難しくありません。ヘッドロックのような体勢で相手の頭を抱え込み、反動をつけて自らの太ももやヒザに打ち付け、前方に一回転させるという力技です。技を掛ける側が、ヤシの実を割っているように映り、馬場の必殺技として一世を風靡しました。
“音響効果”も抜群
実は馬場本人に、この技について聞いたことがあります。1984年のことです。
「この技はね、小さなレスラーが相手だと効果的なんだが、大型レスラーには掛けづらいという欠点があるんだよ。大柄のスタン・ハンセンやブルーザー・ブロディ相手には難しいね」
言われてみればその通り。馬場がハンセンやブロディ相手に、この技を使ったという記憶はあまりありません。あくまでも小兵限定の必殺技だったということでしょう。
ただし、2メートル9センチという大きな体を、より大きく見せる、という意味で、この技は効果的でした。馬場の場合、利き足の右足を軸にして、高々と上げたもう一方の左足の太ももやヒザに相手の頭を打ち付けるのが基本的なやり方でしたが、ねじるように抑えつけた相手の頭が、それこそヤシの実そっくりに見えるのです。よもや頭が割れるようなことはありませんでしたが、マット上に1回転した際のドスンという“音響効果”とも相まって、この技の迫力が、さらに増幅されたような印象がありました。
しかし、小佐野さんによると、技の破壊力については、疑問符が付くそうです。
<小佐野 後に馬場は田上明に「お前、(ココナッツ・クラッシュを)使っていいんだぞ」と言ったんですよ。それは「使えよ」ということなんですけど、本人は嫌がったんです。「だって、あの技どこが痛いの? あんなに説得力のない技はないよ」って(笑)>
深読みすると、馬場は言外に「オレがやるから説得力があるんだよ」と田上に教えたかったのかもしれません。嫌味といえば、嫌味ですけどね。
同じことは“鉄の爪”フリッツ・フォン・エリックのアイアン・クローについても言えます。あれはエリックがやるから説得力があるのです。その意味で、ココナッツ・クラッシュは“東洋の巨人”の異名を取った馬場に、もっともふさわしい技だったと言えるかもしれません。
二宮清純