写真:二宮清純

二宮清純コラムリングサイドの記憶

毎月第2月曜更新

2023年9月11日(月)更新

“テキサスブロンコ”テリー・ファンク死去。
ハードコアマッチで示したドリーとの兄弟愛。

“テキサスの荒馬”というニックネームを地で行く闘争心あふれるファイトで、日米をまたにかけて活躍したテリー・ファンクが、先頃、79歳で亡くなりました。西部劇に出てくるガンマンのような血の気の多いファイトスタイルは、日米の多くのファンを魅了しました。

フォークで大流血

 日本でのテリー人気を不動のものにしたのが、1977年12月に開催された全日本プロレスの「世界オープンタッグ選手権」での流血ファイトです。

 決勝は15日、東京・蔵前国技館。テリーは兄のドリーとザ・ファンクスを結成し、アブドーラ・ザ・ブッチャー、ザ・シークの“史上最凶悪コンビ”と戦いました。

 この試合で、テリーはブッチャー組のフォークなどを使った凶器攻撃により、大流血を余儀なくされました。

 耐えに耐え、サウスポースタイルから、怒りのナックルパート。その瞬間、会場のボルテージは最高潮に達しました。

「負けるなテリー!」「ブッチャーをやっつけろ!」。誰もがテリーに感情移入したはずです。

 このアングルについて、テリーは自著『テリー・ファンク自伝 人生は超ハードコア!』(スコット・E・ウィリアムス共著、エンターブレイン)で、こう述べています。

<腕からの大流血は、ある意味でハードコア・レスリングの誕生でもあった。アマリロではチェーンマッチやデスマッチといった、いわゆるギミックマッチをよく行なうが、どれもが決まってハードな試合になる。こういう試合をやることによってテリトリーのファンを飽きさせないようにしていた。

 たとえば、チェーンマッチは抗争のケリをつけるときだけに使う。長く続いた抗争のクライマックスのために用意しておくのだ。試合は決まってハードになったが、よりハードコアな乱闘スタイルは日本でやったこのスタイルから生まれたものだ>

 言われてみると、確かにその通りです。それまでもアメリカや日本のマットでは、デスマッチがしばしば行われていましたが、ハードコアマッチという呼び名の試合は聞いたことがありませんでした。

ヤンチャでトンパチ

 このハードコアマッチには、2つのテーマが隠されていました。ひとつは先述した悪党への復讐劇、それによって得られるカタルシスです。そして、もうひとつがドリーとテリーの兄弟愛でした。クールでクレバーな兄と、ヤンチャでトンパチ(見境ない人)な弟が力を合わせて悪党どもをやっつける、兄弟愛あふれる物語です。

 参考までに述べれば、日本は75年に合計特殊出生率(一人の女性がその年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子どもの数)が2を下回りました(1.91)。それまでも何度か2を下回ったことはありましたが、短期間で2に回復していました。しかし75年以降、合計特殊出生率が2に回復することはありませんでした。そんな時期での兄弟愛の物語ですから、より感情移入の度合いが深まっていったようにも思われます。

 ところでテリーは3歳年上のドリーについて、どう思っていたのでしょう。

<物静かな人間だからわからないだろうが、確実にファンを虜にする方法を知っていた。兄貴は素晴らしいフットボール選手であり、俺よりもはるかに優れたアスリートでもあった。走りだって、いつも俺より速かった>(同前)

 ドリーとアントニオ猪木が対戦した際には、<念のために俺はリング下に控えて、何か問題が起こったらイノキの頭を蹴りつけてやる準備はしていた>(同前)と舞台裏を明かしています。

 兄ドリーへの憧れと尊敬心が、そうした行動をとらせたのでしょう。向こう見ずといえば向こう見ずな生き方ですが、テキサスブロンコのニックネームが、これほど似合う人はいませんでした。合掌

二宮清純

二宮清純 スポーツジャーナリスト

1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。

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