写真:二宮清純

二宮清純コラムリングサイドの記憶

毎月第2月曜更新

2023年6月12日(月)更新

藤波辰爾「ドラゴン・ロケット」炸裂!
「水のないプール」に飛び込むリスク

 技を仕掛ける方も命がけなら、受け止める方も命がけです。場外に転落した相手目がけて、リングの中から、ほとんど水平に飛び込む「トペ・スイシーダ」。これを武器にドラゴン・ブームを巻き起こしたのが、若き日の藤波辰爾選手でした。

「こいつらバカか!?」

 この危険な技はルチャ・リブレ、すなわちメキシコで生まれたと言われています。ダイブ技はルチャ・リブレの華です。

 この技をメキシコのリングで、初めて目の当たりにした時、藤波選手は「こいつらバカか!?」と思ったそうです。

「だって向こう(メキシコ)の試合会場には闘牛場もあり、リングの下には石ころがゴロゴロ転がっているんです。かわされたら、どうするのか。言ってみれば水のないプールに飛び込むようなもの。さすがに、これをやる気はなかったですね」

 水のないプールに飛び込むようなもの、とは言い得て妙です。もし当たる寸前に相手にかわされてしまったら、大ケガは避けられません。プロレスラーにケガは付き物とはいえ、この技に限ってはリスクが高過ぎます。

 1978年3月3日、群馬・高崎市民体育館。2カ月前にニューヨークで、WWWFジュニアヘビー級王者となり、約3年ぶりに帰国した藤波選手にとっては、失敗の許されない試合でした。テレビで生中継することも決まり、藤波選手は身震いするほどのプレッシャーを感じたといいます。

 試合前には、新日本プロレスの新間寿専務取締役営業本部長から「何かやろうよ」と発破をかけられました。プロレスのメインストリームは、あくまでもヘビー級。ジュニアヘビー級の選手が観客を沸かせるためには、ヘビー級の試合にはないアクロバティックな技が必要だったのです。

“寝屋川血戦”

 相手はマスクド・カナディアン(ロディ・パイパー)選手。藤波選手、凱旋帰国第1戦で、見事にこの技を決め、ブラウン管の向こうを驚かせます。アナウンサーは「ドラゴン・ロケット」と命名しました。プロレスファンの反響の大きさは、テレビ局側の予想をはるかに超えていました。

 しかし、予想をはるかに上回る反響が、逆に藤浪選手を苦しめます。日本中、どこの会場で試合をしても相手がリング下に落ちると、「藤浪、飛べ!」とファンがドラゴン・ロケットを期待するようになったのです。たとえがいいか悪いかはともかく、地方のコンサートで北島三郎が「まつり」を歌わなかったら、あるいは千昌夫が「北国の春」を歌わなかったら、「カネ返せ!」となるでしょう。あれと一緒です。

 とはいっても、ひとつ間違うと大ケガを負いかねないこの技、誰に対しても仕掛けられるものではありません。会場によってはリング上からリング下を見る風景が異なり、距離感を掴むのに苦労するところもありました。

 失敗もありました。78年10月20日、大阪・寝屋川市民体育館でのWWWFジュニアヘビー級タイトルマッチ(61分3本勝負)。相手はメキシコのチャボ・ゲレロ。チャボ1本先取後の2本目、リング下の挑戦者目がけて藤波選手が飛び込むと、そこにはパイプ椅子しか残っていませんでした。チャボに空かされてしまったのです。

 流血をものともせず、防衛に成功した藤波選手。この一戦は、“寝屋川血戦”と呼ばれ、今もファンの間では語り草です。

二宮清純

二宮清純 スポーツジャーナリスト

1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。

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