2024年8月19日(月)更新
羽生結弦「Great Sixth」の称号
過去100年のベストアスリート
これは快挙と言っていいでしょう。国際スポーツプレス協会(AIPS)が創立100周年を記念して企画した「今世紀のベストチャンピオン」を決める投票で、プロフィギュアスケーターの羽生結弦選手が6位にランクインしました。
男性1位はモハメド・アリ
AIPSとは、1924年7月にパリで開催された第8回オリンピックの開会式前、同市で設立されました。
これを記念して、毎年7月2日は「世界スポーツジャーナリストの日」と定められています。
本部はIOC(国際オリンピック委員会)が本部を置くスイスのローザンヌ。世界160の加盟協会で構成されています。
さて、1924年から2024年までの100年間におけるベストアスリートは誰か。投票には世界137カ国913人のスポーツジャーナリストが参加しました。
まずは男性部門。
1位 モハメド・アリ(アメリカ ボクシング)
2位 ウサイン・ボルト(ジャマイカ 陸上短距離)
3位 マイケル・ジョーダン(アメリカ バスケットボール)
4位 ペレ (ブラジル サッカー)
5位 ロジャー・フェデラー(スイス テニス)
6位 羽生結弦(日本 フィギュアスケート)
7位 マイケル・フェルプス(アメリカ 競泳)
8位 ディエゴ・マラドーナ(アルゼンチン サッカー)
9位 フランツ・ベッケンバウアー(ドイツ サッカー)
10位 ジネディーヌ・ジダン(フランス サッカー)
続いて、女性部門。
1位 セリーナ・ウィリアムズ(アメリカ テニス)
2位 ナディア・コマネチ(ルーマニア 体操)
3位 シモーネ・バイルズ(アメリカ 体操)
4位 ナワル・エル・ムータワキル(モロッコ 陸上ハードル)
5位 シュテフィ・グラフ(ドイツ テニス)
6位 エレーナ・イシンバエワ(ロシア 陸上棒高跳び)
7位 マルタ(ブラジル サッカー)
8位 ティルネシュ・ディババ(エチオピア 陸上中、長距離)
9位 フランシナ・ブランカース=クン(オランダ 陸上走り幅跳び、短距離など)
10位 マーガレット・アボット(オランダ ゴルフ)
現在進行形のレジェンド
男性部門、女性部門含め、フィギュアスケーターでランクインしたのは羽生選手ひとりです。アジアからも彼ひとりです。
もう一度、男性部門のランキングを見てください。目が痙攣しそうになるほど豪華な顔ぶれです。
1位のアリは、当然と言えば当然でしょう。アリが本名のカシアス・クレイを“奴隷の名”だとしてイスラム教徒名のモハメド・アリに改名したのが1964年のこと。ここから「ザ・グレーティスト」の物語が始まります。
1960年後半は政治の季節でした。アリはベトナム戦争に反対したことで、一躍、フォークヒーロー(民衆の英雄)となります。
しかし、勇気ある行動には代償が伴います。徴兵を拒否したことを理由に、ヘビー級王座を剥奪され、以降、3年半にわたってリングを追放されるのです。
アリがヘビー級王座を奪還した1974年10月30日の“キンシャサの奇跡”は、今も語り草です。「象をも倒す」と呼ばれたジョージ・フォアマンの猛打を、ロープを背負ってサンドバッグのように浴びながら、打ち疲れを待って逆襲に転じ、目にも止まらぬ連打でフィニッシュしたシーンは、20世紀の、あらゆるスポーツシーンのハイライトといっても過言ではないでしょう。
さて、この10人の中で、競技会からは身を退いたとはいえ、今もプレーを続けているのは羽生選手だけです。その意味では、彼はまだミュージアムの中の人物ではないのです。
「現在進行形のレジェンド」という特権的地位を得た今、今後の羽生選手には氷上のパフォーマンスのみならず、社会に対する言動にもいっそうの注目が集まります。世界の「Great Sixth」として……。
二宮清純