2024年4月15日(月)更新
羽生結弦「Danny Boy」に込めた思い
過去から未来へ虹をかけたイナバウアー
プロフィギュアスケーター・羽生結弦選手と元宝塚歌劇団月組トップスターで女優の大地真央さんの“共演”で話題になった「notte stellata(ノッテステラータ)2024」(開催日は3月8日~10日)。このアイスショーは先月28日、BS日テレで放送されたことで、多くの人々の口の端に上りました。
「13年という時間の中で」
ノッテステラータは昨年も今年同様、宮城県利府町のセキスイハイムスーパーアリーナで行われました。羽生選手は東日本大震災の被災者・犠牲者に向け、“鎮魂の舞“を披露しました。
以下は前年の公演初日終了後の羽生選手のコメントです。
「祈りの気持ち、感謝、哀しい気持ちを込めながら、人知れず滑っては来ていました。ただ、こうやってみなさんの前で、この感情とともに3月11日に演技をするということ。そして、そういう企画の中で演技をするのが初めてなので、正直すごく緊張はしました」
周知のように、セキスイハイムスーパーアリーナは震災直後、遺体安置所として使われました。羽生選手が「本当に、この場所に氷を張っていいのか正直、戸惑いはあります」と、かすかに困惑の表情を浮かべたのも、当然といえば当然でしょう。
それから1年、今年のノッテステラータは、やや趣が変わったような印象を受けました。
羽生選手は初日公演冒頭の挨拶で「(2011年3月11日から)13年という時間の中で、生を享けて一生懸命歩いている子どもたちに向けて僕たちは今日、一所懸命に頑張らせていただきます」としっかり、前を向いて語ったのです。
その前向きな思いは、初めて披露されたソロプログラム「Danny Boy」に色濃く反映されていました。ちなみに、このアイルランド民謡は、荒川静香さんがトリノ五輪のエキシビションで演じた「You Raise Me Up」の原曲としても知られています。
時間軸の設定
演技での序盤、羽生選手は主にリンク中央と東スタンド側にポジションをとりました。中盤以降、リンクを満遍なく使って滑ったものの、西スタンド側に姿を現すことは、ほとんどありませんでした。
なぜでしょう。
「Danny Boyに込めたコンセプトは希望です。希望の中には、“過去の希望”と“未来に対しての希望”があると思うんです。うれしかったこと、震災前の過去に戻って、手を伸ばして触れてみたいと思うこともある。その逆が未来への希望。未来に対して希望を抱き、明るい未来があるように、と祈りをささげることもありますよね。(このアリーナの)ステージから見て、リンクの左側が過去、真ん中が現在、右側が未来という設定で滑りました」
この時間軸の設定は、本人の説明を聞くまで分かりませんでした。
演技の中盤、羽生選手は中央を出発点にし、過去と未来を横断するようにイナバウアーを披露しました。それは過去から現在、そして未来にかけた虹のように映りました。
演技後、羽生選手は前回と今回の違いについて、こう語りました。
「前回は初めて3.11に皆さんの前で演技をさせていただきました。正直、つらい気持ちのままリンクにあがりました。映像を見たり、記憶を思い返したりするとつらいし、そのつらい気持ちにとらわれたまま滑っていました。そのショーで僕が皆さんから希望、元気、勇気をいただいた。だからこそ、あの時にもらったものを、もっともっと皆さんにお返ししたい。もっと希望を届けたい。そう思えたのが今回。その思いを新しいプログラムであるDanny Boyに込めました。(今年は)心意気とコンセプトの面で、全く違ったショーになったと思います」
その思いが十分に伝わる2年目のノッテステラータでした。
二宮清純