写真:二宮清純

二宮清純コラム銀盤のカーテンコール

毎月第3月曜更新

2023年5月15日(月)更新

ファン魅了した“かなだい”の今後
「アイスダンスの楽しさ伝えたい」

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 フィギュアスケート・アイスダンスの“かなだい”こと村元哉中、髙橋大輔組(ともに関大KFSC)が2日、都内で記者会見を開き、競技会からの引退を正式に発表しました。かなだいは3シーズンで第一線から退くことになりましたが、プロとして今後も活動を継続する方針です。さらに、記者会見では後輩の育成やカップル競技の普及についても言及しました。

「右ひざが限界だった」

 競技会から退く理由を、髙橋選手はこう語りました。

「右ひざが限界でした。(アイスショーなので)パフォーマンスはできますが“競技会レベルでのパフォーマンス”となると、僕自身の努力ではどうすることもできないところまで来てしまった」

 既にパートナーの村元選手には、2月の四大陸選手権後に伝えてあったそうです。村元選手の回想。

「大ちゃん(髙橋の愛称)から引退を聞いた時、結成当初に“まずは2年”と言って始めたので覚悟はしていた。全くびっくりしなかった。“あ、そっか。やっぱりそうだよね”と、驚きはなかった」

 さて、気になる今後の身の振り方ですが、カップルは継続するそうです。村元選手は「新しいパートナーを探す気にならなかった」と語り、続けました。

「彼以上に最高のパートナーはいない。まだまだ、いろいろな作品を大ちゃんと創りたいので、新しいパートナーを探す選択肢はなかった」

 それを受けて、髙橋選手。

「かなちゃん(村元選手の愛称)が競技会を続けずに引退を選択してくれたので僕自身、かなだいカップルとして、まだまだパフォーマンスをやっていきたい」

 かなだい結成までの道のりを簡単に振り返りましょう。髙橋選手はシングルのフィギュアスケーターとして3大会連続(2006年トリノ、10年バンクーバー、14年ソチ)で五輪に出場し、バンクーバー五輪では銅メダルを胸に飾りました。ソチ五輪後、28歳で一度現役を引退しましたが、18年7月にシングルで現役復帰。約1年後、既にアイスダンスで活躍していた村元選手が髙橋選手に声をかけました。

「誘ってもいいのかな? 誘った後も本当に声をかけてよかったのかな、悩みました」と村元選手。ここから、かなだいの歴史がスタートしました。

 コンビとしての“作品”となると直近の世界選手権でのフリーダンス(FD)「オペラ座の怪人」が印象に残っています。かなだいは滑らかなエッジワークや息の合ったステップで観る者を魅了しました。髙橋選手は「限界」の右ひざに村元選手を乗せるストレートラインリフトやコンボリフトも難なく決めました。このFDについて、髙橋選手は「いい演技ができた。やっと最後にリフトを決めることができた。“やった!”という思いから嬉しくて演技が終わった後に涙が出た」と振り返りました。

「見ているだけでは伝わらない」

 記者会見では、育成に関する質問も飛びました。村元選手は「国内でアイスダンスやカップル競技を続けていく環境、練習をする環境がない。それに世界レベルを目指すならコーチングやチームとしてのサポート体制は必要になってくる。それがまだ日本には……ない」と、課題を口にしました。

 髙橋選手が引き取ります。

「どの競技でもそうですが、環境が整っていないと集中して練習できない。特にカップル競技は日本ではまだまだ……。今、日本スケート連盟の方々も頑張ってくださっていますが、やっぱり海外に行かないといけない。海外に行くには資金も必要です。やりたくてもできない方々もいらっしゃると思います。環境が整ってくれば、もっとフィギュアスケートのカップル競技が身近なものになります。競技人口が増えればお互いの刺激になり、レベルも上がると思います」

 そして村元選手からは、こんな提案も。

「アイスショーに出た時に、“アイスダンスに興味がある”という子が増えた気がします。興味を持ってくれた子たちと私や大ちゃんが組んであげられたらなぁ、って思います。アイスダンスの楽しさは、やってみないとわからない。見ているだけでは伝わらないこともある。実際に一緒に組んであげて、アイスダンスの楽しさを伝えていきたい。とにかく一緒に滑ってあげることが一番。一緒に氷の上に乗れる機会を増やしていきたい」

 五輪シングル銅メダリストの髙橋選手によると、シングルとアイスダンスは似て非なるもののようです。それはステップやターン、エッジの使い方など多岐に渡ります。それを早い時期に経験することで選択の幅が広がる、とも語っています。実際に経験してみて、それを実感したということでしょう。

 かなだいは、12日から14日、オーヴィジョンアイスアリーナ福岡でのアイスショー「アイスエクスプロージョン」で再スタートを切りました。2人の今後に幸多からんことを祈ります。

二宮清純

二宮清純 スポーツジャーナリスト

1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。

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