写真:二宮清純

二宮清純コラム銀盤のカーテンコール

毎月第3月曜更新

2023年3月20日(月)更新

羽生結弦&内村航平“夢の競演”
「星降る夜」にレクイエムの想い

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 東日本大震災から12年が経った3月10日から12日の3日間、羽生結弦選手は座長として、アイスショー「notte stellata(ノッテ・ステラータ)」を宮城県利府町にて開催しました。大震災が発生した11日の午後2時46分には、他の出演者とともに黙祷を捧げました。

「希望が大きな主旨」

「ノッテ・ステラータ」はイタリア語で「星降る夜」を意味します。自らのエキシビション曲をタイトルに選んだ理由について羽生選手は「流れ星のように今回のキャスト、スケーターさんたちを見せていきたいという話をずっとしていて。僕が演じるのが『星降る夜』というもので。そこから、星たちが降ってくるような感じでオープニングをつくっている」と語りました。このコンセプトを振付師のデビッド・ウィルソンさんと共有して「オリジナルな曲」に仕上げたそうです。

 また、公演の最後に披露した「春よ、来い」は、昨年2月の北京五輪のエキシビションでも採用したものですが、「希望が大きな主旨」とその理由を明かしました。「直線的に震災のことを考えたり、また、その震災にあわれた方々の希望って何だろうかと……」。滑りにはレクイエムの想いがこもっているように映りました。

 今回の公演にはサプライズがありました。それは体操男子個人総合で五輪連覇(12年ロンドン、16年リオデジャネイロ大会)を果たした内村航平さんとの“共演”です。フィギュアスケートの金メダリスト(14年ソチ、18年平昌大会)と体操の金メダリストのコラボレーションなんて、聞いたことがありません。

 いったい、どういう経緯で、“共演”は実現したのでしょう。羽生選手が言うには「ノッテ・ステラータの企画を組んでくださった方が、普通のアイスショーじゃないことをしたい」と提案したそうです。そこから「内村さんとのコラボの話が出てきた」というのですが、当の内村さんは、どうだったのでしょう。

身体のダイアローグ

「羽生君の地元でもあるし、彼はそういう(復興への)思いを持ってやっている。僕も12年前に東京で世界選手権があり、開催が危ぶまれたのですが、やり切った。被災地の方々に“勇気をもらいました”“元気をもらいました”という声をいただき、それを糧に頑張ってきている。そうした思いを持った同士のコラボということもあり、その思いが届けばいいなと……」

 衣装はふたりともお揃いの黒のタンクトップとズボン。両腕には黒のアームバンドをはめていました。

 内村さんが床で伸身の連続宙がえりを披露すると、羽生選手はそれに呼応するように、リンクで側転やジャンプを繰り出します。羽生選手のスピンに対しては内村さんが高速の開脚旋回で応えます。次第に“共演”は“競演”の色を帯びていきます。

 天才は天才を知る、と言います。演技後の内村さんのコメントに、その一端が垣間見えました。
「目の前で羽生君がスピンをしている時に、僕は円馬で旋回しているところだった。自分の目で見て、コラボできているなと、すごく感じました」

 自らの演技の最中に、パートナーの演技を視野に入れる――。おそらく時間にすれば、ほんの一瞬でしょう。この行為自体が、私に言わせれば神業です。

 羽生選手と内村さんが被災地で初めて披露した“身体のダイアローグ”。果たして第2章はあるのでしょうか……。

二宮清純

二宮清純 スポーツジャーナリスト

1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。

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