写真:二宮清純

二宮清純コラム銀盤のカーテンコール

毎月第3月曜更新

2023年2月20日(月)更新

りくりゅう、“酸欠地獄”も四大陸V
埼玉での年間グランドスラムに王手

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 フィギュアスケートペア日本代表の三浦璃来選手、木原龍一選手組(りくりゅうペア)が米国・コロラドで行われた四大陸選手権(10、11日/現地時間)で優勝しました。グランプリ(GP)ファイナル覇者のりくりゅうは今回の優勝で「年間グランドスラム」(GPファイナル、四大陸選手権または欧州選手権、世界選手権を同一シーズンでの優勝)に王手をかけ、3月に埼玉で行われる世界選手権に臨みます。

1800メートルの高地

 コロラドの高地での演技が、どれほど厳しいものなのか。それはやった者じゃなければわからないでしょう。

 昔、女子マラソンの名伯楽・小出義雄さんを取材するため、コロラド州のボウルダーというまちを訪れたことがあります。さらに、そこから1時間半ほど車で山を上がったところにネダーランドという小さな町がありました。

 最初のうちは、生活するのも大変で、小出さんは「夜は特に寝苦しい。到着して数時間は、寝る前に何度も深呼吸して、空気をいっぱいに吸い込まないと寝つけない」とこぼしていました。

 なぜ、こんな空気の薄い高地を強化合宿の場所に選んだのか? と問うと、小出さんは、こう語りました。

「ランナーの酸素摂取量を少なくし、少ないエネルギーでより効率的に走れるようになるのを目的としているんだ」

 練習を見ているだけでも大変なのですから、走っている方は、もっと大変だったに違いありません。

 さて、四大陸選手権の会場・ブロードムーア・ワールド・アリーナの標高は約1800メートル。案の定、高地による酸素の薄さがスケーターたちを苦しめました。演技時間が長いフリースケーティング(フリー)の後、リンクに倒れたり、四つん這いになる選手が続出しました。りくりゅうが優勝を果たした理由の1つとして“フリーでのペース配分”があげられます。

「ここで休憩しておいて」

 このペアは、いつもならフリーの終盤に派手なリフト技を持ってきます。演技の終わり、しかも酸素の薄い環境下では、必然的に体力消耗によるミスが起きやすくなります。演技中盤、木原選手が三浦選手に「ここで休憩しておいて」と語りかけたのは、実にタイムリーでした。本来、女性を担ぎ上げる男性の方がはるかに体力的にきついはずです。すなわち、木原選手の先の言葉は自らへの言い聞かせだったかもしれません。

 こうしたペース配分が最後の5リバースラッソーリフトの成功につながりました。演技が終わると2人ともリンクにヒザから崩れ落ちました。特に消耗の激しい木原選手は倒れ込む時間が長く、起き上がってからも終始、ヒザに手をついたままでした。肉体的にも精神的にも限界だったのでしょう。

 りくりゅうのフリーの得点は137.08=1位。SP(71.19=1位)との合計得点208.24。2位の米国ペア(エミリー・チャン、スペンサー・アキラ・ハウ)に7点差以上をつけ、日本勢ペアとして初めて四大陸選手権を制覇しました。

 三浦選手は後日、SNSでこう発信しました。<標高の高い中、最後まで頑張ってくれてありがとう@ryuichi_kihara>。最後のリフト技で無事に自らを着氷させてくれた木原選手への、ねぎらいのメッセージでした。

二宮清純

二宮清純 スポーツジャーナリスト

1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。

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