2022年12月19日(月)更新
りくりゅう、GPファイナル日本勢初V
チームに推進力もたらせるコーチの力
フィギュアスケートペア日本代表の三浦璃来選手、木原龍一選手組(りくりゅうペア)がイタリア・トリノで行われたグランプリファイナル(現地時間8、9日)で日本勢初のGP制覇を達成しました。二人が信頼を置くブルーノ・マルコットコーチらも含めた「チームりくりゅう」には、さらなる飛躍が期待されます。
「やはり緊張していた」
ショートプログラム(SP)曲は「You’ll Never Walk Alone」。演技冒頭、りくりゅうはツイストリフトを成功させます。ISU(国際スケート連盟)のジャッジシステムではBから4の5段階で評価されますが、11月のGP日本でのりくりゅうの評価は真ん中の「2」でした。それが「3」に上がったのですから、2人は自らの成長を実感したはずです。
ツイストリフトを成功させたあたりから、2人には持ち前の「スケートを楽しむ姿」が見え始め、サイドバイサイドのトリプルトウループを2人して決めると、表情から笑みがこぼれました。
その後のスロートリプルルッツ、ステップ、スピンも見事に決め、上々のフィニッシュ。結果は技術点43.13、演技構成点34.95の合計78.08点で首位に立ちました。
気のせいか、この日のりくりゅう、どこかよそ行きの立ちあがりに見えました。試合後、案の定、三浦選手は、こう明かしました。
「気負わずに、と思っていたがやはり緊張していた。終わった瞬間に二人で“よかった”と言葉が出たほどでした」
りくりゅうペアは30センチの身長差(木原選手が175センチ、三浦選手が145センチ)に加え、9歳(木原選手が30歳、三浦選手が21歳)という年齢差にも注目が集まっています。必然的にペアをリードするのは年長の木原選手です。演技前、三浦選手が「緊張している」と伝えると、木原選手は「今季のゴールではないから、別に失敗してもいいんだよ」とやさしく諭したといいます。チームワークの良さは、こうした点に起因しているのかもしれません。
認め合う力、信じる力
迎えた翌日のフリー曲は「Atlas:Two」でした。冒頭の3-2-2回転の連続トウループの場面、三浦選手のジャンプが2回転になりました。また、サイドバイサイドのトリプルサルコウでは木原選手が着氷時にバランスを崩し、片手を着くミスがありましたが、それも2人は笑顔でくるみました。
演技後のキスアンドクライでは三浦選手が木原選手の腕に手を回し、顔をすり寄せるシーンが印象に残りました。
結果は技術点66.91、演技構成点69.59の136.50点。SPとフリーの合計を214.58点とし、2位アレクサ・クニエリム、ブランドン・フレージャー(米国)ペアを引き離し(1.3点差)、日本勢初のGPファイナル・チャンピオンに輝きました。
先に、りくりゅうのチームワークの良さについて書きましたが、それにはマルコットさん、メーガン・デュハメル、ブライアン・シェールズさんの3人のコーチの存在が大きいようです。
あまり思い出したくない話ですが、今年2月の北京冬季五輪女子シングルフリーで精彩を欠いたカミラ・ワリエワ選手(ROC)に対し、エテリ・トゥトベリーゼコーチが「なぜ、戦うのをやめたの」と叱責する場面がありました。ドーピングはもちろん許されないことですが、傷心状態の少女はまだ15歳です。トゥトベリーゼコーチの人間性を垣間見る思いがしました。
コーチの語源は「馬車」に由来します。「人をある地点まで送り届ける」ことが任務です。とはいえ、人の意見も聞かずに、馬車が勝手に目的地を決めることはできません。木原選手が常々、コーチへの感謝の思いを口にしていることでもわかるように、このチームには互いが互いを認め合う力、信じ合う力があるようです。それが最大の推進力になっているのかもしれません。
二宮清純