2022年11月2日(火)更新 [臨時号]
りくりゅうペア、カナダGPで完全V
心を奪う氷上で咲き誇るスマイルの花
“りくりゅう”こと、フィギュアスケートペアの三浦璃来と木原龍一組が10月29日と30日(現地時間)にカナダのミシソーガで開催されたグランプリ(GP)シリーズ第2戦でショートプログラム(SP)、フリースケーティング(FS)ともに1位の“完全優勝”を達成しました。日本勢ペアとして初の快挙です。
「全ミスでもいいから」
まず、“りくりゅう”について簡単に説明しておきましょう。三浦選手は現在20歳、木原選手は30歳。ふたりは2019年にペアを結成しました。お互い、新たなパートナーを探している時期に三浦選手が木原選手にオファーを出したそうです。
このペアが注目を集めたのは、2022年2月の北京冬季五輪でした。団体戦ではSP、FSともに自己ベストを更新し、日本の銅メダル獲得に貢献しました。個人戦SPでは、ふたり揃ってのトリプルトゥループの場面で、三浦選手のジャンプがダブルになるミスがあり、入賞圏一歩手前の8位(70.85)にとどまりました。翌日に行われるFS進出条件(SP上位16位以上)を満たしてはいたものの、三浦選手の表情は雲ったままでした。
「全ミスでもいいから恐れず楽しんでやろう」と木原選手が三浦選手に声をかけ、臨んだFS。ポジションにつくとふたりは吹っ切れたような笑顔で握手をかわしました。トリプルトゥループ、ダブルトゥループ、ダブルトゥループの3連続ジャンプの着氷はどんぴしゃり。ここでふたりは視線を合わせ、満面の笑みを浮かべたのです。結果は141.04点。合計211.89を記録し、日本勢初となる五輪入賞(7位)を果たしたのです。その余勢を駆って、北京冬季五輪から約1カ月後に行われた世界選手権では、日本勢最高となる銀メダルを獲得しました。
この7月、日本でのアイスショーで三浦選手は左肩を脱臼し、2カ月間、戦線を離脱しました。そのためカナダGPはりくりゅうにとって復帰戦になりました。
「ふたりで一緒に楽しんで滑る」
SPの曲は「You’ll Never Walk Alone」でした。のびやかに滑り出し、木原選手が頭上で三浦選手を3回転させるツイストを決め、ふたり揃ってのトリプルトゥループを成功させます。スロウ3ルッツは三浦選手が着地時にバランスを崩しましたが、何とか踏ん張りました。続くスピンやステップシークエンスもノーミスで演技をまとめました。これにより73.39という高得点を叩き出し、首位に立ちます。
木原選手はフラッシュインタビューで、こう語りました。
「明日のフリーも楽しんで滑ること。もちろん結果が出せたら、ベストですけど楽しんで滑った方が良い笑顔になるので。結果より今日と同じようにふたりで一緒に楽しんで滑ることを目標に頑張りたいなと思います」
迎えた2日目のFS、曲は「Atlas:Two」でした。三浦選手の左肩脱臼の影響もあり、通しでの練習はこの日を含め5回しかできなかったといいます。最初のジャンプはトリプルトゥループからの連続ジャンプ。三浦選手が1回目のジャンプで氷に手をついてしまいます。それでも、木原選手は“大丈夫、何も気にする必要はない”と言わんばかりに三浦選手の手を取りエスコートします。演技の後半には木原選手が三浦選手を前方に投げるスロウ3ルッツを見事に成功させます。とろけるようなスマイルで木原選手は三浦選手を迎えにいきます。最後は大胆なリフト技で演技をしめると会場は大歓声に包まれました。FSの得点は138.63。SPとの合計は212.02。これまでのパーソナルベストを更新し、見事優勝を果たしたのです。
りくりゅうの演技を見ていて、えも言われぬ幸せな気分に浸ったのは私だけでしょうか。その背景には常に互いを尊重し合う真摯な姿勢があるように思われます。これからも氷上で、いくつものスマイルの花を咲かせてもらいたいものです。
二宮清純