2022年7月1日(金)更新 [臨時号]
フィギュア、年齢制限引き上げの背景
選手寿命延ばす制度設計と環境整備
国際スケート連盟(ISU)のカレンダーでは7月1日から新年度がスタートします。新年度前のタイでの総会でISUはフィギュアスケートの五輪や世界選手権などシニア国際大会に参加できる選手の年齢を、15歳から17歳に引き上げることを決定しました。
引き上げは段階的に
年齢制限は段階的に引き上げられます。2022年-2023年シーズンは現行の15歳のままですが、23年-24年シーズンは16歳、24年-25年は17歳となります。このルールはスピードとショートトラックにも適用されます。段階的とはいえ、ISUが年齢制限の引き上げに踏み切ったのは、「選手の心身の健康を守る」ためです。
ジャンプが重要な要素を占めるフィギュアスケートでは、体重の軽い選手の方が有利に働きます。過酷な減量が成長期の選手たちに精神的・肉体的な負担を強いるのは言うまでもありません。
14年ソチ五輪団体金メダルに貢献し、“ロシアの妖精”と言われたユリア・リプニツカヤはたび重なるケガと拒食症に悩まされ、19歳で引退しました。18年平昌五輪金メダリストのアリーナ・ザギトワ(ROC、当時15歳)は、19年12月に活動休止を発表。最近では北京冬季五輪で7位入賞を果たした米国のアリサ・リウが、16歳の若さで引退を決意しました。
いつだったかソルトレイクシティ五輪で女子シングル5位、トリノ五輪同4位と2大会連続入賞を果たした村主章枝さんから、こんな話を聞いたことがあります。
「不安定な氷の上で、スケート靴で踏み切り、着地をすると足首や膝、骨盤に負担がかかります。さらに、スピンは同一方向にしか回りません。若いうちからこれらの激しいトレーニングを積んでいると、どうしても体の歪みが出てきてしまいます。結果、体が悲鳴を上あげてしまうんです」
さらに、「これは私の感覚的なものかもしれませんが」と言い、続けました。
「負荷をかけたトレーニングをずっとしていると、背骨の連なりが悪くなってくるんです。それを戻す作業をしないと少しずつ歪んできてしまう。フィギュアスケート選手が短命なのはそういうところに原因があるのかもしれません」
個性を表現すべき
参加年齢が15歳以上になったのは98年長野大会からですが、22年北京大会までの女子シングル・金メダリストの選手の名前と年齢(メダル獲得時)をここに記しましょう。
98年長野大会 タラ・リピンスキー(米国) 15歳
02年ソルトレイクシティ大会 サラ・ヒューズ(米国) 16歳
06年トリノ大会 荒川静香(日本) 24歳
10年バンクーバー大会 金妍児(韓国) 19歳
14年ソチ大会 アデリナ・ソトニコワ(ロシア) 17歳
18年平昌大会 アリーナ・ザギトワ(OAR) 15歳
22年北京大会 アンナ・シェルバコワ(ROC) 17歳
7大会での金メダリストの最年長は06年トリノ大会の荒川静香さん、24歳56日で表彰台の真ん中に立ちました。トリノで荒川さんは加点につながらないイナバウアーを披露し、観る者を魅了しました。
のちに荒川さんはこう語りました。
「フィギュアスケートは相手と競う競技であると同時に、芸術的な要素を兼ね備えています。それならば、たとえ点数につながらないものでも個性を表現するパートが1カ所くらいあってもいいのではないでしょうか。私が目指していたものは単に高得点をマークすることではなく、自分の良さを最大限に発揮することでした」
さて、今回のルール改正により26年、ミラノ・コルティナダンペッツォで開催される冬季五輪に島田麻央(13歳)は出場できなくなります。現在、日本で唯一4回転トーループを跳べる彼女は10月生まれ。五輪開催前年の7月1日時点で17歳以上でなければならないからです。残念ではありますが、後々、「失ったものより受益の方が大きかった」と笑顔で振り返られる競技人生であって欲しいものです。
二宮清純